超短編小説 No3 『宝石パイ屋さん』
□1
ここは宝石パイ屋さん。
キラキラ輝く宝石が埋め込まれたパイを売るお店だ。
□2
私がパイ屋さんに入ると、店の奥からなにやらくぐもった声が聞こえる。
このお店は人間用じゃないので、店主さんも人間には聞こえない声を出すのだ。
私はちょっとだけお辞儀をして、店のショーケースに張り付く。
アメジストのブドウパイに、エメラルドのナシパイ。ダイアモンドのピーチパイはやっぱり少しだけお高い。
宝石はキラキラと光を乱反射し、店中が虹色に染まっている。
私はこのお店に来るといつも踊りだすような気分になるのだ。
でもそんなことしたらきっと、奥にいる店主さんに食べられてしまうだろう。
□3
私はなんだかんだ安定のルビーのリンゴパイを買った。
店主さんはお会計のときだけ店の奥からのっそりと出てきてくれる。
見た目は深海動物みたいで怖いけど、とても優しい人だ。たまに飴をくれることもある。
私はルビーのリンゴパイを持って家に帰る。
家につく頃にはルビーのリンゴパイはただのリンゴパイになっていて、とても食べ頃だろう。
私は下手な口笛を吹きながら、寄り道せずに家に帰った。皆が私を待っているのだ。