『一瞬小説・超短編小説』なみのり 創作総合

140文字程度の一瞬小説をメインに、短い小説を作ります。 2019/08/17から、本格的に活動しています。

超短編小説 No10 『シュークリームと象』

□1
私の誕生日の日に突然、蜃気楼みたいな空気をまといながらどこからか象が現れた。

□2
その象は(多分)招かれてもいないのにパーティーテーブルの前まで来て、おもむろにシュークリームに鼻を伸ばす。
リンゴを食べるみたいな手付きで、フワフワトロトロなシュークリームが次々と象の口に吸い込まれていく。
私はその様子を唖然として見ていた。
周りの皆は象のことなんか気づいてないようで、カラフルなドリンクやキラキラのお菓子を楽しそうに食べている。
私はただ、驚きすぎて声が出なかった。

□3
私はクリーム色のベッドで目を覚ました。
不思議な夢を見ていた気がする。
私は桃色のパジャマから適当な部屋服に着替え、歯を磨き、髪をとかして、その時、カレンダーを見て気がついた。

そうか。今日は私の誕生日か。

私は今日はシュークリームでも作ってみようかなと思う。昔母に教わったきりだから、うまく作れるかわからないけど。

もしかしたら…なんだか家に象が訪れてくる気がするのだ。そうなったらとても愉快だ。でも、なぜそう思うのだろう?


「こんにちは。」
「…やぁお嬢さん。こんにちは。何年ぶりかな?」
「数時間ぶりよ。シュークリーム、沢山作ってあるわよ?」

超短編小説 No9 『星屑と列車』

□1
私は流星群を見に来ていた。
星の輝く群青の空は、地上を淡く照らしている。まるで海の中ににいるみたいな気分だ。
私達の街は水没してしまったのだ。

□2
私がそんな妄想をしていると、誰かがあっと声を上げる。
流星群が始まったのだろう。私も空を見上げる。
空を切り裂くみたいに、幾つもの白いすじが通っていく。
炎の塊が、間隔を開けずに地上に降り注ぎ、水に落ちてシュボッと音を立てて消えていく。
そんな表現がピッタリだろうか。
私がそんなファンシーな考えに頭を支配されていると、流星群の一つが消える気配を見せずに、音も立てずに地上の街のある一箇所に吸い込まれていってしまった。

□3
一瞬の出来事だったし、私はなにか起きたのか理解できていなかった。
私は駅までいってみることにした。


駅に着くと、そこには人だかりができていた。
本当に流星が落ちたのだろうかと思ったが、そういうわけではないようだ。
ホームには蒸気機関が堂々と座っていて、黒い車体に赤い塗装がされている。
なぜ今更蒸気機関
「それはこの機関車が海の街を行くからデスネ。」
後ろから制服姿の人物に声を掛けられる。少しなまったみたいな声だ。
私は独り言を言っていただろうか…?
駅員さんは言葉を続ける。
「海をいくならダンゼン、炎をガンガン燃やせる蒸気機関車に限ります。ドウデス?お乗りになりませんか?」
海のなかで何故炎を?あべこべな話な気がする。
どうやらこれは夜行機関車で、今からこの機関車への乗り込みが開始されるようだ。


どうせ明日も明後日もお休みなのだ。
私はちょっとチケット代が高い、そして行き先も知らないその列車に乗ることにした。

超短編小説 No8 『夜の街のソーダ水』

□1
街灯に照らされた静かな街並み。
藍色の空と、濃紺の空気。藍色の街。
ここは水没夜の街。
そこにはとある魔法使いが暮らしている。
彼女はまだ若いけど、それなりの苦労をしてきたもののような、老獪な雰囲気をユラユラと周りに漂わせる。
それでいながら目は楽しげなのだから、その全てが彼女の魅力なのだ。

□2
魔法使いはソーダ水片手に、フラフラ歩いて、ライトアップされた公園の池に空き瓶をポイッと投げた。
空き瓶は綺麗な弧を描いて、ポシャンと音を立てて沈んだ。

□3
しばらくして、空き瓶にパチパチと群がる光の群。
瓶はたちまちランプになる。
水面がボコボコ言い始めると、魔法使いは瓶を取り出して、灯りを売りに水没夜の街を彷徨い始める。

超短編小説 No7 『読書灯』

□1
月もない真っ暗な夜中。
私は暗い部屋でベッドにうつ伏せ、一人読書灯を見ていた。
魚の形のオレンジに光る読書灯だ。
私は本も開かずにただ、読書灯を見ていた。

□2
オレンジの灯りが私の体に張り付いて、後ろに大きな黒い影を作る。
影は私の真後ろで大きな怪物の形を成す。
でもこの怪物はいい怪物なのだ。
決して私を襲うことはなく、ただ私を見守っているのだ。

□3
私が目覚めると、太陽がカーテンの隙間から差し込み、外では小鳥が高らかに鳴いている。
私はいつの間にか薄い掛け布団を羽織っていた。
多分これは怪物の仕業だろう。
彼はいつの間にかどこかへ行ったようだ。

私は読書灯のスイッチを切り、ベッドからのそのそと這い出る。


今日も何かが起きる気がする。
私は溢れ出るワクワクを抑えながら、家を飛び出した。

超短編小説 No6 『サイコロ振ってみた』

□1
今度のパーティーで皆にマジックを披露したいと思って、こっそり練習しようと計画していたら、自然と足が雑貨屋さんに向いていた。

□2
雑貨屋さんはまるで宝箱やクラッカーのようで、楽しいものやワクワクするものが詰まっていた。
宝石みたいなボタンに、見たことない大陸のある地球儀。
しばらく物色していた私はマジックの事を思い出して、両手に持っていた商品を丁寧に棚に戻した。
結局私は赤と青のサイコロを2つ買って店を出た。
帰り際、雑貨屋さんの店主さんが飴玉を一つくれた。

□3
何度か練習したのだけれど、私はちっともマジックが上手くならなかった。
すっかり飽きてしまった私は、適当にサイコロを転がしてみた。
結果は7。
ラッキーセブンだ。
そのとき、窓の外から子供達の笑い声が聞こえた。
私はしばらくそれを眺めて過ごした。
とても楽しそうにしている。

超短編小説 No5 『毛糸川』

□1
水色と白色の毛糸玉を買ってきた。
漠然となにか作りたくなったのだ。
でも買ったきりなかなかやる気が出なくて、机の上に転がしていたら、ポンポンと床に落としてしまった。
急いで拾おうとしたけど、毛糸玉はどんどん遠くに行ってしまう。
私が椅子の上でそれを見ていると不思議なことに、床中に毛糸が溢れて、いつの間にか私の部屋は青と白の毛糸の川が出来ていた。

□2
部屋の壁はとっくに流されて、私は椅子に座ったまま川下に流されていく。
椅子の船は浮き沈みがあり、ゆらゆらとしてまるで観覧車のようだった。
足に触る毛糸の水は初冬だというのにちょろちょろと涼しくて、気持ちがいい。
そのうち私はだんだんと眠くなってきた。

□3
私が目を覚ますと、目の前に毛糸の川が出来ていた。私はそのマフラーを首に巻いて、寒空の町に出ていって歩き始めた。

瘴気少女 1人目『瘴気の園の奥地』

瘴気の園の奥地

私がそこで寝ていると
一人の兵士が現れた

「君は…子供…か?」

私はすぐさに飛びかかり
彼の首に噛み付く

彼は無様に悲鳴をあげ
私を蹴っ飛ばして逃げた

「私は魔物よ」

私は小さな口と歯で
にんまりと笑ってやった 

以下『イメージ・シンボル辞典』より引用

『兵士』のシンボルの意味
勇敢、防衛、警戒を表す
また、古来には低い身分を表す

『子供』のシンボルの意味
無邪気、純潔、始まり、あけぼの、神秘の中心を表す

『魔物』のシンボルの意味
始原の生き物
[心理学]怪物は無意識が生み出すものとされる
真実を見まいとする本能、膨れ上がった欲望、邪な意図を表す